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温熱環境を整えること

石焼きビビンバのように

写真ではお伝えできませんが、ここのところ私達の作る空間は、温熱環境を整えている事例が多く存在しています。

多くは住宅で取り入れているのですが、今の住宅はベタ基礎といって1階全体にベッタリと基礎を作る方式をとっています。これは床下に石の塊があるようなものです。 よく石焼きビビンバの話を持ち出すのですが、石焼きビビンバの器はいつまでも熱くなったままです。石などは一度温まるとなかなか冷めない性質があるからですが、住宅の下にこのようなものがあるのですから、これを温めてあげれば住宅の1階は全て温かくなるという考え方です。

床暖房は昔からありますが、設置してもリビングやダイニングなどで、全ての個室や廊下にまで床暖房を設置するのは費用がかかりすぎると諦めていました。しかし、床下が全体に温まってしまえば、玄関や風呂やトイレまでも温かくなってしまうのです。これは高齢者が浴室などで、急な温度変化により体に負担がかかるなどという話を聞いたことがあると思いますが、このような危険がなくなることにもつながります。夜トイレに行くときに寒くて億劫だと思ったこともあろうかと思いますが、このようなこともなくなります。

アトリエM(2016) 3階建ての住宅。両側が建物に囲まれているので採光と空気の流れのために吹抜けを計画した。

エアコンのヒートポンプを組み合わせて効率よく

しかし、そんな大きな面積を温めて光熱費が上がってしまうのでは?という疑問が湧いてきますが、現在私達は熱源に温水を用いています。この温水を作るのにエアコンのヒートポンプを用いています。空気中の熱を利用して温水を作る事のできるヒートポンプという設備は、ただ電気でお湯を作るのと比べると4倍ほど効率が良くなります。つまり電気代は1/4で済むという設備です。

清川-M(2014) 実際に室内の温度を計測して効果を検証。しっかりと断熱することで効率的な空調計画となる。

このようにヒートポンプで作った熱を基礎に蓄熱すると言うことが基本の考え方ですが、暖まった基礎を冷めにくくするためには、家全体の断熱性能が重要になります。最近は断熱の性能も上がり、サッシの性能も大変向上しています。深夜電力が安い時代には夜中だけで基礎を温め、電気代の高くなる日中はタイマーで温水を作るのをストップして、一日中快適に過ごすこともできるようになってきました。

また驚くかも知れませんが、1階の基礎を暖めただけなのに、なぜか2階の部屋も暖かくなるのです。これは輻射熱という熱の伝わり方が影響しています。

輻射熱による自然な暖かさ

冬にたき火のそばに行ったことを想像して下さい。気温が例えば0度だったとしても、たき火のそばに行くと顔がポカポカと暖かくなってきます。空気の温度が問題ではなくて、火の熱がそれに直接面している人体の部分に移動してしまうのです。ちなみに火に面していない背中は冷たいままです。なので、たき火のそばに行くと、たまに背中も火の方に向けたくなります。そうすると背中もポカポカとしてきます。

京島-M(2016) ほぼワンルームの狭小住宅は、冬期には床暖房のみで空調する。

このように熱は温度の高いところから、低いところへ移動していくので、1階の床が暖まると、それに面している1階の天井が暖かくなってしまうのです。さらに1階の天井から2階の床に熱が移動してしまうので、2階の床も暖かくなっていきます。

ここでエアコンの暖房との違いを少し説明しますが、エアコンは空気だけを暖めているので、床や壁の温度はそうは上がりません。暖まった空気は上に溜まってしまうので、足下が冷えた感じはなかなか解消されません。オフィスでもいくらエアコンを付けても毛布を足下にかけながら仕事をしている人は多いのはそのためです。実際に床の温度が16度より下がるといくら空気を暖めても足下が冷えた感じになるのです。

上池台-H(2009) 1階の蓄熱式床暖房の仕上げはタイル張り。2階は簀の子にする事で暖気が全体に広がっている。

床暖房は床の温度が20度程度でも快適に過ごせます。エアコンに比べて空気の温度は上がっていないのですが、たき火の話のように、空気の温度よりも床面の温度が大切なのです。

ちなみに私達の事例では3階建てやスキップフロアで6つの床に分かれた空間でも、この方法で全体にバランスをとって暖めた経験がありますので、さまざまな空間で実践可能な考え方だと思っています。

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